おうちにあるもので現像できる?
コーヒーでフィルムの現像ができる!
それを知ったのは、私が8ミリフィルムの自家現像を始めてすぐのことでした。
でも、8ミリフィルムでどうやってコーヒー現像をすればいいの...?
わからないまま年月が経ってしまいましたが、なんと今読んでいる本(a)に、映画用フィルムでのコーヒー現像について書いてありました。
それを読んでいるうちに、
「もしかして、すべて家にあるもので現像できるんじゃない...?」
と、みるみるとやる気がみなぎってきたので、その本のレシピを元に実験してみました!
ということで、今回の試みは「コーヒー現像」を柱としていますが、それに「塩定着」「洗濯用洗剤前浴」がドッキングした、現像の家庭用品欲張りセットになります。
この試みを仮に「ハウスホールド現像」とでも呼んでおこうかなと思います。
そして、この文章はその実験記録のような感覚で書き残しておきます。
このブログを読んで8ミリフィルムをコーヒー現像をしようかと思っている稀有な人は、以下の「コーヒー現像」の項目を中心に参考程度に読んでいただければと思います。
あくまでも私の実験と記録としての文章ですので、これまたご参考程度に「塩定着」と「食器用洗剤前浴」を行った「ハウスホールド現像」の項目も合わせて読んでいただければと思います。
今回はお試しの実験ということで、8mmフィルム50ft丸々1本分を使わずに、1/3の15ft分くらいの長さを、250mlの現像タンクで行いました。
現像液の分量はそれに合わせて調節して実験しました。
今回現像したフィルムはKodak Tri-Xです。
結果から言うと現像できました!!!
コントラストが低めで見づらいですが、像が出たこと、全部家にあるもので現像できたということに感動です。
下のイメージは、今回現像した8mmフィルムを映写した映像をを簡易的にテレシネして色反転させたものです。
以下、現像工程とコーヒー現像、ハウスホールド現像について記録しておきます。
現像工程
コーヒー現像はモノクロのネガの現像になります。
カラーやネガ、リバーサルなどのフィルムの種類にかかわらず、モノクロネガの現像になるとのことです。
ですので、一般的なモノクロネガの現像と同様の、以下の工程になります。
【前浴 → 現像 → 停止/水洗 → 定着 → 水洗 → 乾燥】
コーヒー現像では、上の工程の「現像」の部分のみがコーヒー現像液になります。
【前浴 → コーヒー現像 → 停止/水洗 → 定着 → 水洗 → 乾燥】
今回の、前浴と定着も家庭用品を使う「ハウスホールド現像」では、以下の工程になります。
【食器用洗剤前浴 → コーヒー現像 → 停止/水洗 → 塩定着 → 水洗 → 乾燥】
現像に使うツールについても、一般的な自家現像用品を使います。
- 現像タンク
- ダークバッグ
- 計量カップ
- じょうご
- 温度計
- 重さを測るはかり
- 作った現像液をためておくペットボトル2本
コーヒー現像
コーヒーに含まれる「フェノール」という成分に現像剤の役割があるようで、コーヒー現像は、コーヒー酸(caffeic acid)とフェノールを合わせた造語「Caffenol」と広く呼ばれます。
ここ20年間で自家現像する写真家の間で実験と開発をされてきました。
Caffenolには様々な種類があって、またフィルムの種類ごとにも現像工程に違いがあります。
今回はCaffenolの中でも、感度50~200の映画用フィルムに適用する「Caffenol-CM」のレシピと現像工程を参考に、8mmフィルムのKodak Tri-Xで実験してみました。
材料
※今回の250ml現像タンク用に実験した分量です。[ ]内は参考元の1L現像タンク用の分量です。
- 水...250ml[1L]
- 重曹(あるいは炭酸ソーダなどの炭酸ナトリウム)...13g[54g]
- ビタミンCパウダー...4g[16g]
- インスタントコーヒー(デカフェではないもの)...10g[40g]
上の順番で溶かして作ります。
混ぜるとすごい泡が溢れてきました。
一気に入れずに少しずつ入れて溶かすといいかもしれません。
溶かす水温は常温で溶けますし、現像に使用する時も常温(21℃程度)です。
泡と戦いながらなんとか作りました。ペットボトルに入れるとコーラみたいです。
コーヒー現像液が出来上がったら、あとは通常のモノクロネガ現像の工程で現像するだけです。
ですが、今回は、私はハウスホールド現像の工程で実験したので、そのやり方では純粋なコーヒー現像をしようとしている人には参考にしづらいです。
そのため、映画用フィルムでのコーヒー現像の基準となる現像工程の表を以下書き留めておきます。
ハウスホールド現像
コーヒー現像にプラスして、前浴と定着に使う現像剤も家にあるもので作り実験しました。
前浴は、通常ドライウェルを使いますが、その主な成分は界面活性剤なので、食器用洗剤を使う「食器用洗剤前浴」を試しました。
定着液は、コーヒー現像の場合ではラピッドフィクサーを使うことが推奨されていますが、参考にした本(a)に書いてあった食卓塩で作る「塩定着」を試しました。
食器用洗剤前浴
材料
※今回の250ml現像タンク用に実験した分量です。[ ]内は参考元の1L現像タンク用の分量です。
- 水...250ml [1L]
- 食器用洗剤...0.3ml [ 1ml]
温度はさほど気にせず、常温の水温で作り使用します。
私は前浴で5分間攪拌させました。
塩定着液
塩だけで定着液が作れるなんて驚きですが、やはりその効果は市販の定着液にはかなわないわけで、なんと定着時間が2時間かかります(笑)
3日間漬けておいたという話も(b)。8mmフィルムの塩漬けです。
材料
※今回の250ml現像タンク用に実験した分量です。[ ]内は参考元の1L現像タンク用の分量です。
- 沸騰した水...300ml+α [1L+α]
- 塩...80g [300g]
沸騰した水に塩を溶かすのですが、その時にだいぶ水が蒸発するので水は多めに入れておきます。
私は最初、水が少なかったのか塩が溶けきらずにむしろ結晶化して失敗しました...(下の画像は失敗して塩が結晶化した鍋です)
時間をかけて塩を少しずつ入れて溶かすとうまくできました。
塩が残っているとフィルムに傷がつくので、コーヒーフィルターで濾して使います。
塩定着液は30℃にして使います。
お湯につけて温度調節しながら、時々攪拌して2時間つけておきました。
現像から2日経った現時点ではまだフィルムの画に変化はなさそうなので定着液も成功なのかもと思いますが、今後も経過を見ていきます。
まとめ
今回の実験の目標は、コーヒー現像に加え、その他の現像剤もすべて家庭用品でつくって8mmフィルムを現像するということでした。
像が出たというということで「ハウスホールド現像」実験成功です!
現像の実験としては、コントラストが低く、一度に実験を詰め込みすぎたので、諸々不完全かと思いますが...
今後はそれぞれの現像剤について、より綺麗な像を得られるように実験を重ねて追記していく予定です。
身の回りにあるものを応用すると、身の回りに潜む化学が見えてくるような気がして面白いです。
フィルムの現像現象に対してもまた、理解が深まります。
おうち時間が多い現状、家庭用品とフィルムを紐付ける実践から、多くのことを学べる機会かもしれません。
そしてまた、現像した8ミリフィルムと映写機を持ち出して、一緒に密集し、密着し、密接に、濃厚な上映会をしましょう。
参考
(a)Kathryn Ramey, "Experimental Filmmaking: Break the Machine", Routledge, 2015, pp.197-201, pp.206-207
この本を読んで今回の実験を思いつきました。エコロジー自家現像の項があって、草やワイン、じゃがいもでの現像についても書いてあります。他にも、現在だからこそ実験的に楽しめるフィルムの楽しむ方法が満載の本です。
私と同じく、コーヒー現像と塩定着液での8mmフィルム現像の記録をシェアしているサイトです!塩定着に3日かけていてすごい。
35mmスチルのフィルムでのコーヒー現像を簡潔にわかりやすく紹介しています。
(d)YUMYUMSOUPS
美味しくヘルシーにをモットーに(!)、海藻やトマト、オレンジやビールなど食物での8mmフィルム現像を紹介している最高にクレイジーで面白いサイトです!!
カフェノールについて、基本から様々な種類を紹介しつつ、現像を開発する各人のエッセイ集的にも楽しめるバイブルです。